当院では心の不調について幅広く診療を行います。
対象は18歳以上の方です。
〈診療方針〉
診察は患者さまやご家族がどんなことで困って受診されたのか、教えていただくことから始まります。
心の不調は、日々の生活の苦労の中から生じてきます。「こんなことは医者に話すことではないかも」と思うような生活の悩みが、実は症状の鍵になっていることがあります。無理のない範囲でお話をしていただければと思います。
お話をうかがい、問題の不調が病気の症状なのかどうか、どのように対応していけばいいのかを考えていきます。
心の病気は、身体の病気のように検査ではっきりわかるものではありませんが、精神医学的な経験からかなりの症状が診断可能になっています。
お困りの不調が病気の症状であり、薬の内服によって改善が期待できるものであれば、適切な薬の内服をお勧めします。
薬は症状の改善に本質的な役割を果たすことも、補助的な役割にとどまることもありますが、どんな場合でも患者さまやご家族との対話を大切にすることを基本方針として参ります。
自分の悩みが病気なのかどうかわからない、この程度のことで受診していいのだろうか?と迷った場合でも、お気軽にご相談ください。
〈心の不調とは〉
たとえば次のような不調がある場合、心の病気かもしれません。
- ぐっすり眠れない
- 緊張するので人と会うのを避けてしまう
- 人が多い場所で動悸、息苦しさ、吐気などに襲われる
- 鍵をかけたか不安になって何度も確かめる
- 手をいくら洗ってもきれいになったと思えない
- のどが詰まったり手足がしびれたりするのに体の異常が見つからない
- 食欲がなくなり体重が落ちたのに体の異常が見つからない
- 何をするにもおっくうになった
- 朝起きるのがつらくて仕事や家事にとりかかれない
- 忘れっぽくなって単純なミスが増えた
- 何でもできるような気になっていろんなことに手を出してしまう
- ささいなことで怒りっぽくなった
- ついさっき言われたことを覚えていない
- まわりで自分のうわさをされているようだ
〈さまざまな心の病気〉
不眠症
不眠症はおおまかに、もともと神経質な人の不眠と、精神疾患の症状としての不眠に分けられます。
神経質な人の不眠は病気と言うほどではありませんが、慢性的な睡眠不足によって昼間の仕事や家事の能率が落ち、疲労感が抜けないのが問題になります。 日中の適度な活動、リラックスできる就寝環境を整えること(室内を適温にする、自分に合った枕にする、本の数ページを読む、スマホを控えるなど)が勧められます。
いろいろ工夫しても眠れない場合、睡眠薬の助けを借りることもあります。
睡眠薬と聞いて心配になるのは副作用や依存でしょう。
よくある副作用は、薬が強すぎる場合の残眠感や脱力感です。
睡眠薬は作用時間の長さなどによって何種類かに分類されています。不眠の程度、年齢、体格、生活スタイル、持病などに応じ、なるべく副作用がでないように薬を選びます。
依存については「常用量依存」といって、正しい使用量でも長く使っていると慣れが生じ、なかなか薬を手放せなくなることがあります。
睡眠薬の適切な使い方は医師と相談していく必要があります。
睡眠は健康の基礎です。不眠は精神疾患の症状としても頻度が高く、病気の早期サインと言えます。それについてはそれぞれの病気の説明で触れていきます。
うつ病
気分が晴れない、意欲がでない、いらいらする、以前は楽しかったことに興味をもてなくなった、感情が乏しくなった、食欲が落ちた、眠れない(深夜や明け方暗いうちに目が覚めてしまう)などの症状が一定期間続きます。
老若男女を問わず、人間関係のストレス、過重労働、体の病気、妊娠出産、転居、定年などさまざまな出来事がきっかけになりますが、これといったきっかけがなく発症することもあります。
体の不調を伴うことが多く、頭が重い、胸がモヤモヤする、胃がムカムカするなどの症状で内科にかかっても原因が見つからない場合、実はうつ病だったということがよくあります。
本人は「怠け者になった、まわりに迷惑をかけている」と自分を責めやすく、病気の症状であることになかなか気づきません。
最近は正常な気分の変化と区別しにくい軽症うつ病が増えていますが、重症化すると自殺の原因になるため注意が必要です。
適切な薬の内服と休養によってかなりの確率で治る病気なので、なるべく早期に診断・治療を受けることが望まれます。
適応障害
明らかなストレスによって一時的にうつや不安が生じている状態です。
原因となるストレスは職場や家庭の負担、人間関係、体の病気などさまざまです。
ストレスが原因で発症しますから、原因となるストレスがなくなれば治る理屈になります。しかし実際には周囲の環境がすぐに変化することはなく、ストレスに対する感受性にも個人差があるため、症状が長引くことがあります。
対策は、可能な範囲で環境調整をはかり、症状緩和のため補助的に薬を使うことになります。
軽いうつ病と似ていて、経過をみないと区別できないことがよくあります。
うつ病の場合は原因となるストレスがなくても発症することがある、またストレスがなくなった後でも同じ症状が続くことがあるというのが一つの違いです。
認知症
認知症にはさまざまな種類があります。最も多いのはアルツハイマー型認知症です。
はじめは最近の出来事を忘れ、さっき言われたことを何度も聞き直したり、台所で火を使っているのを忘れて鍋を焦がしたりするようになります。
そして物の名前が出てこず「あれ」「それ」などと言うようになり、日にちや曜日がわからなくなります。
もともと活発だった人が何もせずボーッとするようになり、慣れているはずの仕事のミスが増え、手の込んだ料理を作れなくなってきます。
昔のことはよく覚えていますし、わからなくなったことを自分でも不安に思い、恥じて隠そうとするので、家族から間違いを指摘されると怒って否定します。 外で迷ったり、お金を盗られたと思い込んだり、夜間せん妄といって夢と現実の区別がつかずに興奮したりするようになると、ご家族の介護負担は非常に大きくなります。
対策としては家族だけで抱え込まず、適度な刺激を保つためにデイケアなどの介護保険サービスをうまく利用することが大切です。
また最近は認知症に適した薬を使ってこれらの症状を緩和し、在宅生活を長く続けることが可能になってきました。
気をつけなければならないのは、脳梗塞や硬膜下血腫などで認知症になる場合があることです。このため一度は神経内科や脳外科で頭部CTやMRIなどの検査を受けることをお勧めします。
不適切な安定剤や睡眠薬によって認知症のようになっている場合もあるため、病院でもらっている薬にも注意が必要です。
パニック症
動悸、過呼吸、しびれ、めまい、吐き気などが突然生じ、気が遠くなり「死んでしまうのではないか」と恐怖感に襲われます。
内科的な検査で異常がなく原因となる身体の病気が見つからない場合、これらの症状は不安によるパニック発作である可能性が高くなります。
発作は外出先で起こりやすく、「また起こるのではないか」という不安から外出を避けるようになると、生活の範囲が狭まってしまいます。
人が多くて逃げ場のない電車やバスの中、レジの行列、集会、すぐに降りられない高速道路などがとくに苦手な場所になります。
パニック発作は自律神経の一時的な興奮症状で、命に別状はありません。しかしその苦しさ、恐怖感は大変なものです。
治療は、抗不安薬や抗うつ薬で発作を抑制しながら、なるべくこれまで通りの生活範囲を保つこと、苦手な場所に少しずつ慣れる練習をすることです。
症状の出現には、疲労の蓄積、過度に几帳面な生活が関係することがあります。生活スタイルの見直しも時に必要です。
社交不安症
人前で緊張してぎごちなくなってしまう、うまく話せない、相手の目を見ることができない、赤面してしまう。
これらは誰にでもある正常な現象です。 世の中には社交的な人、非社交的な人がいて、人付き合いの範囲はそれぞれ違います。付き合いが好きな人もきらいな人もいます。全員が社交的である必要はなく、付き合いが少ない生活で不便がなければ問題はないでしょう。
社交不安症は、あくまで自分自身が対人緊張で悩み、それをどうにかしたいと思っている場合の名称です。
そもそも、他人と会うことには莫大なエネルギーを要するものです。 他人は何を考えているかわからない存在であり、自分の言葉や態度がどう受け取られるか、相手がどう反応するか、予測できません。
他人の前で緊張してうまく振舞えないのはむしろ自然なことではないでしょうか。
私たちは社会に出ていくにつれ、それぞれの役割を引き受け、それにあった振舞いをするようになります。社会的な役割は生身の自分を守り、対人緊張を緩和する働きをしています。
社交不安症はその過程で現れる一時的なつまずき現象かもしれません。 治療ではそのような視点を交え、必要に応じて抗不安薬や抗うつ薬などで過剰な不安の軽減をはかります。
強迫症
不潔や汚染に対する過度のこだわりがよくみられる症状です。
たとえば、きれいになったと思えずいつまでも手洗いを続ける、入浴に時間がかかりすぎる、人が触ったものに触れなくなる、「菌」に汚染されていると思った物に触れなくなる。
強迫症は、不合理だとわかっている観念(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消そうとする行為(強迫行為)によってさらにその観念が強まり、悪循環に陥ってしまう病気です。
強迫行為が増えるとふつうの日常生活が回らなくなります。 鍵をかけたか不安になって何度も確認する、道に何か落としたのではないかと何度も確認する、不適切な考えが頭に繰り返し浮かんできてしまうなどの症状もあります。
強迫症は不安の病です。多少の強迫症状は誰にでもありますが、苦痛が強く日常生活の妨げになってくると治療の対象になります。
うつ病や統合失調症など他の疾患との関連で現れることもあるため、治療は慎重な診断のもとで行っていきます。
躁うつ病
うつの時期と躁の時期が波のように交代して現れる病気です。双極性障害とも言います。
うつ病と同じように、うつの時は気分がどんよりして意欲や興味がわかず、思考力が落ちて口数が減り、悲観的なことばかり考えるようになります。
躁はその逆で、気分が高揚してアイデアが次々と浮かび、何でもできるような気になって行動的になり、よくしゃべるようになります。あまり睡眠をとらなくても平気、機嫌がいいことも、怒りっぽくなることもあります。
困るのは本人に病気の自覚があまりなく、人とのトラブルや浪費が増えることです。
躁の後にうつがくると気分の落差が大きいため、とてもつらく感じられます。
治療の中心は気分安定薬などを使って躁うつの波を弱め、平穏な気分をできるだけ保つことです。 躁が軽くうつだけが反復しているように見える場合、双極性2型と診断されることがあり、うつ病とは治療が異なってきます。
軽い躁はうつ病の回復過程で一時的に現れたり、もともとの気質の一部として現れたりすることもあり、治療の必要性はその都度判断されます。
統合失調症
脳の情報処理がうまくいかず、思考が混線しやすくなる病気です。
考えがまとまらない、集中力が落ちたなどの衰弱感から始まることがあります。
周囲の雰囲気が何となく変わったようで怖くなり、自分の考えと他人の仕草を関係づけ、考えていることが人に知られている、見張られていると思い、人を避けて閉じこもるようになってきます。不眠も強くなります。
自分のすることや考えることにあれこれ言う声が聞こえ(幻聴)、それに答えたりするようになると、周囲から孤立してふつうのコミュニケーションができなくなってきます。
発症時期は10代半ば頃から30代までと幅広く、未治療の期間が長くなると治療も難しくなります。
まわりの人は異変に気づいたら早めに受診を勧めなければなりません。
きちんとしていたのにだらしなくなった、学校の成績が急に落ちたなどの変化で気づかれることもあります。
治療薬は進歩しています。内服を続ければ改善する病気です。